業務用音声機器用語集

用語集

基本音響用語

音圧レベル（SPL：Sound Pressure Level）

音の大きさを客観的に表す物理量。デシベル（dB SPL）で表記

  • 0 dB SPL: 人間の可聴限界（基準値：20μPa）
  • 60 dB SPL: 通常の会話レベル
  • 85 dB SPL: 労働安全上の8時間暴露限界
  • 120 dB SPL: 痛みを感じるレベル
  • 140 dB SPL: 聴覚損傷の危険レベル 録音時のマイク選択や配置距離の決定に重要な指標

周波数（Frequency）

音の高低を決める振動数。ヘルツ（Hz）で表記

  • 20Hz-20kHz: 人間の可聴範囲
  • 20Hz-250Hz: 低音域（ベース、キックドラム）
  • 250Hz-4kHz: 中音域（ボーカル、楽器の基音）
  • 4kHz-20kHz: 高音域（シンバル、楽器の倍音）
  • 超低音域（20Hz以下）: サブウーファー領域
  • 超高音域（20kHz以上）: 空気感や臨場感に影響

ダイナミックレンジ

最大音圧と最小音圧（ノイズフロア）の比。dBで表記

  • CD: 96dB（16bit）
  • 高品質録音: 120dB以上（24bit）
  • 人間の聴覚: 約130dB
  • コンサートホール: 60-70dB 録音機器の性能指標として重要。広いダイナミックレンジほど音楽の表現力が豊か

THD（Total Harmonic Distortion：全高調波歪み）

音響機器が発生させる歪みの量をパーセンテージで表示

  • 0.01%以下: 高品質オーディオ機器
  • 0.1%以下: 業務用機器の一般的な仕様
  • 1%以上: 歪みが聴感上認識される 真空管機器では意図的に歪みを発生させる場合もある

S/N比（Signal to Noise Ratio）

信号レベルとノイズレベルの比率。dBで表記

  • 60dB以上: 実用レベル
  • 80dB以上: 高品質レベル
  • 100dB以上: 最高品質レベル 数値が大きいほど雑音が少なく高品質

マイクロフォン用語

指向性（Polar Pattern）

マイクが音を拾う方向特性

  • 無指向性（オムニ）: 全方向から均等に集音。自然な音質、ハウリングしやすい
  • 単一指向性（カーディオイド）: 前方向を中心に集音。最も一般的で扱いやすい
  • 超指向性（スーパーカーディオイド）: より狭い範囲を集音。遠距離録音に適用
  • 双指向性（フィギュア8）: 前後から集音、左右を拒絶。対談録音に最適
  • ショットガン: 極めて狭い範囲を集音。映像制作で多用

感度（Sensitivity）

マイクが音圧を電気信号に変換する効率。mV/Paまたはdbで表記

  • 高感度（-30dB以上）: 小さな音も拾える。コンデンサーマイク
  • 中感度（-40〜-50dB）: バランスの良い特性
  • 低感度（-55dB以下）: 大音量専用。ダイナミックマイク 感度が高すぎると不要な音も拾いやすい

最大音圧レベル（Maximum SPL）

マイクが歪みなく収音できる最大音圧。dB SPLで表記

  • 120dB SPL: 一般的なボーカルマイク
  • 140dB SPL: 楽器用マイク
  • 160dB SPL: 大音量楽器専用 ドラムやギターアンプなど大音量音源では重要な仕様

等価雑音レベル（Self-noise）

マイク自体が発生する雑音レベル。dB SPLで表記

  • 15dB SPL以下: 高品質スタジオマイク
  • 20dB SPL以下: 業務用標準レベル
  • 25dB SPL以上: 一般用途 クラシック録音など静かな音源では特に重要

コンデンサーマイク

静電容量の変化で音を電気信号に変換するマイク

  • 特徴: 高感度、広周波数特性、低ノイズ
  • 電源: ファンタム電源（+48V）が必要
  • 用途: スタジオレコーディング、放送、映画制作
  • 種類: ラージダイアフラム、スモールダイアフラム、エレクトレット 湿気に弱く、取り扱いに注意が必要

ダイナミックマイク

磁界の中で振動板とコイルが動くことで発電するマイク

  • 特徴: 頑丈、電源不要、大音量に強い
  • 感度: 一般的にコンデンサーマイクより低い
  • 用途: ライブ演奏、スピーチ、楽器録音
  • 代表機種: Shure SM58、SM57など 過酷な環境でも安定動作する信頼性の高さが特徴

リボンマイク

磁界の中でリボン状の導体が振動して発電するマイク

  • 特徴: 暖かく自然な音質、双指向性
  • 感度: 非常に繊細、大音量や衝撃に弱い
  • 用途: ボーカル録音、楽器のアンビエント録音
  • 歴史: 1930年代から使用される伝統的なマイク ビンテージサウンドを求める録音で重宝される

音響処理用語

イコライザー（EQ）

周波数特性を調整する機器

  • パラメトリックEQ: 周波数、ゲイン、Q値を自由に調整
  • グラフィックEQ: 固定周波数帯域をスライダーで調整
  • シェルビング: 特定周波数以上/以下を一律調整
  • ハイパス/ローパスフィルター: 特定周波数以上/以下をカット
  • Q値: 調整する周波数帯域の幅（狭いほど鋭い調整）

コンプレッサー

音声の音量差を圧縮する機器

  • スレッショルド: 圧縮開始レベル
  • レシオ: 圧縮比（4:1なら入力4dBに対し出力1dB）
  • アタック: 圧縮開始までの時間
  • リリース: 圧縮終了までの時間
  • メイクアップゲイン: 圧縮後の音量補正 ボーカルや楽器の音量を均一化し、聞きやすい音にする

リミッター

設定レベル以上の音をカットする機器

  • コンプレッサーとの違い: より強い圧縮（∞:1）
  • 用途: 音響機器の保護、放送での音量制限
  • 種類: ハード/ソフトリミッティング
  • ルックアヘッド: 瞬間的な音量ピークも制御 デジタル録音での音割れ防止に必須

ゲート/エキスパンダー

設定レベル以下の音をカットまたは減衰させる機器

  • ゲート: 完全にカット
  • エキスパンダー: 段階的に減衰
  • 用途: 不要なノイズや音の除去
  • パラメーター: スレッショルド、レシオ、アタック、リリース ドラム録音でのノイズ除去などに効果的

リバーブ

残響効果を付加する機器・エフェクト

  • ホール: コンサートホールの残響
  • ルーム: 小さな部屋の残響
  • プレート: 金属板の振動を利用した人工残響
  • スプリング: スプリングを利用した残響
  • デジタル: コンボリューション、アルゴリズムリバーブ 音に空間的な広がりと深みを与える

ディレイ/エコー

音を遅延させて付加するエフェクト

  • ショートディレイ（1-30ms）: 音の厚みや定位感の調整
  • ミドルディレイ（30-100ms）: ダブリング効果
  • ロングディレイ（100ms以上）: エコー効果
  • テープディレイ: アナログテープの特性を再現
  • マルチタップディレイ: 複数の遅延時間を設定

デジタル音声用語

サンプリング周波数

1秒間にアナログ音声をデジタル化する回数。Hzで表記

  • 44.1kHz: CD品質。20kHzまでの音を正確に記録
  • 48kHz: 映像制作の標準。放送・映画で使用
  • 96kHz: ハイレゾ音源。より高音質な録音
  • 192kHz: 最高品質。マスタリング用途 ナイキスト定理により、記録可能な最高周波数はサンプリング周波数の半分

ビット深度（Bit Depth）

音声の振幅を何段階で記録するかを示す

  • 16bit: CD品質。96dBのダイナミックレンジ
  • 24bit: プロ用標準。144dBのダイナミックレンジ
  • 32bit: 最高品質。理論上無限のヘッドルーム ビット数が多いほど細かな音量変化を正確に記録可能

レイテンシー（Latency）

デジタル処理による音声の遅延時間。ミリ秒（ms）で表記

  • 1-3ms: 許容範囲（演奏者が感じない）
  • 5-10ms: やや遅延を感じる
  • 20ms以上: 明らかに遅延を感じる リアルタイム演奏や録音モニタリングで重要な要素

ジッター（Jitter）

デジタルクロックの時間的なゆらぎ

  • 原因: 電源ノイズ、クロック回路の不安定性
  • 影響: 音質劣化、歪みの発生
  • 対策: 高精度クロック、電源の安定化 高品質なデジタル音響機器では特に重要な仕様

ワードクロック

デジタル音響機器間のサンプリング同期信号

  • マスター/スレーブ: 基準機器から同期信号を供給
  • BNC端子: 75Ω同軸ケーブルで接続
  • 重要性: 同期が取れないとノイズや音飛びが発生 複数のデジタル機器を接続する際に必須

接続・インターフェース用語

XLR端子

プロ用音声機器の標準接続端子

  • 3ピン: モノラル音声（マイク、ライン）
  • 5ピン: ステレオ音声、AES/EBU
  • ピン配列: 1番グランド、2番ホット（+）、3番コールド（-）
  • バランス接続: ノイズに強い差動伝送
  • ロック機構: 確実な接続を保証

TRS/TS端子

  • TS（モノラル）: Tip（信号）、Sleeve（グランド）
  • TRS（ステレオ）: Tip（L）、Ring（R）、Sleeve（グランド）
  • TRS（バランス）: Tip（ホット）、Ring（コールド）、Sleeve（グランド）
  • サイズ: 1/4インチ（6.35mm）、1/8インチ（3.5mm） 楽器や民生機器との接続で多用

AES/EBU

プロ用デジタル音声伝送規格

  • 接続: XLR端子使用
  • 伝送: 2チャンネルデジタル音声
  • 距離: 最大100m伝送可能
  • 品質: 無劣化でデジタル音声を伝送 スタジオや放送局での標準デジタル接続

S/PDIF

民生用デジタル音声伝送規格

  • 同軸: RCA端子使用
  • 光: 光ファイバー使用（TOSLINK）
  • 制限: 距離が短い（数m程度）
  • 用途: CDプレーヤー、DAT等の民生機器 AES/EBUの民生版として開発

MADI（Multichannel Audio Digital Interface）

多チャンネルデジタル音声伝送規格

  • チャンネル数: 最大64チャンネル
  • 接続: 同軸ケーブルまたは光ファイバー
  • 距離: 光接続で最大2km
  • 用途: 大規模スタジオ、ライブ会場 デジタルミキサーとマルチトラックレコーダー間の接続に使用

Dante

Audio over IP（ネットワーク音声伝送）の代表的規格

  • 伝送: 標準的なイーサネット経由
  • チャンネル数: 数百チャンネル対応
  • レイテンシー: 1ms以下
  • 利点: 既存LANインフラ活用、柔軟な配線 現代の大規模音響システムで急速に普及

測定・調整用語

SPLメーター

音圧レベルを測定する機器

  • A特性: 人間の聴感特性に合わせた測定
  • C特性: 平坦な周波数特性での測定
  • Fast/Slow: 応答速度の設定
  • 用途: 音響設備の調整、騒音測定 正確な音量管理に必須の測定器

リアルタイムアナライザー（RTA）

周波数スペクトラムをリアルタイム表示する機器

  • 表示: 1/3オクターブまたは1/1オクターブバンド
  • 用途: 音響システムの周波数特性調整
  • ピンクノイズ: 測定用基準信号
  • イコライザー調整: 会場特性に合わせた音響調整 音響システムのチューニングに不可欠

インパルス応答測定

会場やシステムの音響特性を測定する手法

  • 測定信号: スイープサイン、MLS（Maximum Length Sequence）
  • 取得データ: 周波数特性、位相特性、時間応答
  • 解析: 残響時間、エコー、音響欠陥の特定
  • 活用: 音響設計、システム調整、ルーム補正

THD+N測定

全高調波歪み＋雑音の測定

  • 測定方法: 基準信号の歪み成分を分析
  • 表示: パーセンテージまたはdB
  • 用途: 音響機器の品質評価
  • 基準: 1kHz、1Vでの測定が一般的

録音・制作用語

マルチトラック録音

複数の音源を個別のトラックに分けて録音する手法

  • 利点: 個別に音量・音質調整可能
  • トラック数: 8、16、24、32、64、128トラック等
  • 同期: SMPTE、MTC（MIDI Time Code）
  • 編集: 各トラック独立して編集可能 現代の音楽制作・映像制作の基本手法

オーバーダビング

既に録音された音に追加で録音を重ねる手法

  • モニタリング: 既存音源を聞きながら録音
  • パンチイン/アウト: 特定部分のみ録音
  • レイテンシー: 遅延による演奏への影響を考慮
  • 用途: ボーカル、楽器の追加録音

ミキシング

複数のトラックを混合し、ステレオ音源に仕上げる作業

  • バランス: 各楽器の音量配分
  • パンニング: ステレオ定位の設定
  • エフェクト: リバーブ、EQ等の音響処理
  • ダイナミクス: コンプレッサー等による音量制御 楽曲の最終的な音質を決定する重要な工程

マスタリング

ミックス完了音源を最終製品に仕上げる作業

  • 最終調整: 全体的なEQ、コンプレッション
  • 音圧: 適切なラウドネスレベルに調整
  • フォーマット: CD、配信、アナログ等に対応
  • 品質管理: 音響的な問題の最終チェック 音楽制作の最終工程として極めて重要

ラウドネス

人間の聴感に基づいた音量の尺度

  • LUFS: ラウドネス単位（Loudness Units Full Scale）
  • 放送基準: -23 LUFS（日本の地上波放送）
  • 配信基準: -14 LUFS（Spotify等）、-16 LUFS（YouTube）
  • 測定: 統合ラウドネス、瞬時ラウドネス 従来のピークレベル管理に代わる新しい音量基準

ヘッドルーム

最大レベルまでの余裕

  • デジタル: 0dBFS（フルスケール）までの余裕
  • アナログ: 歪み開始レベルまでの余裕
  • 推奨値: デジタル録音では6-12dBの余裕を確保
  • 重要性: 突発的な音量ピークへの対応 録音時の音割れ防止に重要な概念

音響機器用語

ミキシングコンソール

複数の音声信号を混合・制御する機器

  • チャンネル: 入力信号の数
  • バス: 信号の経路（メイン、モニター、AUX等）
  • フェーダー: 音量調整つまみ
  • EQ: 各チャンネルの周波数調整
  • ルーティング: 信号の分配・送り先設定 ライブ演奏や録音の中核機器

パワーアンプ

音声信号を増幅してスピーカーを駆動する機器

  • 出力: ワット（W）で表記
  • クラス: A級、B級、AB級、D級（効率と音質の違い）
  • インピーダンス: スピーカーとの整合（4Ω、8Ω等）
  • ダンピングファクター: スピーカー制御能力
  • THD: 歪み率の仕様 高品質な音響再生に必要な基幹機器

スピーカー

電気信号を音波に変換する機器

  • ウーファー: 低音域再生ユニット
  • ツイーター: 高音域再生ユニット
  • ミッドレンジ: 中音域再生ユニット
  • クロスオーバー: 周波数帯域分割回路
  • エンクロージャー: 箱体設計（密閉型、バスレフ型等）

モニタースピーカー

録音・ミキシング用の高精度スピーカー

  • ニアフィールド: 近距離試聴用（1-2m）
  • ファーフィールド: 遠距離試聴用（3m以上）
  • アクティブ: アンプ内蔵型
  • パッシブ: 外部アンプ必要
  • 特性: フラットな周波数特性、正確な音像定位 音楽制作・映像制作で音の最終判断を行う重要機器

ヘッドフォン/イヤフォン

個人用音響再生機器

  • 開放型: 自然な音質、音漏れあり
  • 密閉型: 遮音性高い、低音強調
  • インピーダンス: 駆動の容易さ（32Ω、250Ω等）
  • 感度: 能率の高さ（dB/mW）
  • モニター用: 正確な音質再現を重視 録音・編集作業での詳細な音確認に使用

音響測定・分析用語

周波数分析

音声信号の周波数成分を解析する技術

  • FFT（高速フーリエ変換）: デジタル周波数分析の基本技術
  • スペクトラム: 周波数軸上での信号成分表示
  • スペクトログラム: 時間軸を加えた3次元表示
  • 窓関数: 分析精度向上のための信号処理技術 音響システムの特性把握や音質改善に使用

位相（Phase）

波形の時間的な位置関係

  • 同相: 波形が同じタイミング（0度）
  • 逆相: 波形が反転（180度）
  • 位相差: 2つの信号間の時間差
  • 位相キャンセル: 逆相信号による音の相殺
  • コムフィルター: 位相差による櫛状の周波数特性 ステレオ録音やマルチマイク録音で重要な概念

コヒーレンス

2つの信号間の相関性を示す指標

  • 値: 0（無相関）～1（完全相関）
  • 用途: 音響測定の信頼性評価
  • ノイズ: 測定環境のノイズ影響を判定
  • 伝達関数: システム特性測定の精度評価 音響測定の品質管理に重要

この用語集は業務用音響機器の専門用語を詳細に解説したものです。音響技術の進歩により新しい用語や概念が追加される場合があります。各用語の理解により、より効果的な音響制作・運用が可能になります。

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